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01. 降臨
02. 眩暈坂
鬱瀬身(うつせみ)に光は照りつけ 懊悩の果ての業曝(ごうざら)し
廻りだした意識の聲(こえ)は 遠く冥(くら)い澱の底から
残念、観念の幻想
射干玉(ぬばたま)の夜の乱れ髪 眦(まなじり)の奥の惑わかし
廻りだした意識の聲は 遠く冥い澱の底から
残念、観念の幻想
「産の上にて身まかりたりし女、其の執心、此のものとなれり
其のかたち、腰より下は血にそみて、
其の声、をばれう、をばれうと鳴くと申しならはせり」
駄螺(だら)だらだらだら?だらだらと
眩暈坂(めまいざか)は続いてゆく
「うふふ。遊びましょう」
「朦朧と煙る視界の中で少女の白い脛(すね)は朱に染まり
私の耳元で、Yらに?
私は畏(おそ)れた。
私は走った。
ざわざわと鳴る漆黒の闇を?
狂っているのは
少女なのか
或いはこの私であるのか」
廻りだした意識の聲は 遠く冥い澱の底から
残念、観念の幻想
03. 鬼
鬼と女(おなご)は見えぬぞよろし 古の書に伝えて謂(い)うは
鬼神(かみ)であれども鬼魅(おに)といえども 荒ぶる神の遠縁者(とおえんじゃ)
片目潰され案山子(かかし)にされて 囚われたるは祝殿(いわいてん)
崇り恐れて贄(にえ)を祀りて 我が身可愛や神祭り
丑虎(うしとら)の門開きてみらば 挙(こぞ)りて集う夜叉(やしゃ)の群れ
己が堕落を打算で隠すは 孩児(がいじ)を屠る間引き鬼
屍気(しき)漂いし憂(う)き山の 静寂(しじま)に浮かぶ祝殿
今や鬼神(きしん)の形は物 永久(とこしえ)の我が庵(いお)か
人の畏怖(いふ)は堂々巡
ちんがり捲(めく)らの御法神(ごほうしん)
生きつ絶えつ鬼となりて
心の闇に現在(いま)もひそみ続けしと
獄卒だとて祖霊(そりょう)と崇めしや
貌(かたち)を得たり御霊(ごりょう)の天の邪鬼(じゃく)
人の畏怖(いふ)は堂々巡
ちんがり捲(めく)らの御法神(ごほうしん)
生きつ絶えつ鬼となりて
心の闇に現在(いま)もひそみ続けしと
04. 逢魔刻
沈み始めた太陽が 朱(あけ)と紅(べに)とを混ぜる頃
静けさが町を包み 家に入れと母が呼ぶ
人と魔物が逢い見(まみ)える
魔魅(まみ)の忌(いま)わしき逢瀬(おうせ)
黄昏刻(たそがれどき)は禍々(まがまが)しく
百魅(ひゃくみ)生じて災い成す 逢魔刻(おうまがとき)
焼け落ちる様な天仰ぎ 溶けて行く陽を仰臥(ぎょうが)する
郷愁(きょうしゅう)の目頭から しとどに溢れる泪
現世(うつしよ)と隠世(かくりよ)の狭間
暗闇の雲が交叉する
誰そ彼刻(たそがれどき)は苦々しく
無常の風を吹かせて去る 逢魔刻(おうまがとき)
魑魅魍魎(ちみもうりょう)の行列が 鼻を掠(かす)めて行こうとも
聲(こえ)一つ上げてはならぬ 只過ぎ行くを送るのみ
映ろう人の魂が 我が世恋しと哭(な)き叫び
鴉にその身窶(やつ)しても 浮かばれぬその怨念よ
戦慄(せんりつ)の時間(とき)よ今 我が身を抱いて舞い踊れよ
戻りはせぬ日に 想いを寄せて
黄昏刻(たそがれどき)は禍々(まがまが)しく
百魅(ひゃくみ)生じて災い成す
誰そ彼刻(たそがれどき)は苦々しく
無常の風を吹かせて去る
05. 文車に燃ゆ恋文
募る想いが今宵も
戀の雫を睫毛(まつげ)の先で
薄く溶かした墨にて
筆を繰り綴(つづ)ることには
嗚呼(ああ) 愛しやな
嗚呼 切なやな
文車(ふぐるま)に乘せた戀の便りは
屆くことも無く 塵へと還る
文車に乘せた戀の便りは
打ち捨てられて くれなゐに燃ゆ
心亂れて落つるは
淚の色の恨みつらみよ
吟ずる詩歌(うた)は夜想の
葉わぬ戀の鎮魂歌(れくいえむ)かな
嗚呼 戀しやな
嗚呼 侘(わび)しやな
文車に乘せた戀の便りは
屆くことも無く 塵へと還る
文車に乘せた戀の便りは
打ち捨てられて くれなゐに燃ゆ
文車に乘せた戀の便りは
屆くことも無く 塵へと還る
文車に乘せた戀の便りは
打ち捨てられて くれなゐに燃ゆ
06. 氷の楔
いつか結ぶ運命(さだめ)の糸は
遠く彼岸(ひがん)の旅路と成りて?
愛しき人の骸(むくろ)を横たえて
血も通わぬ此の腕を齧(かじ)る
降りゆく雪の白さに怯えては
終(つい)の知らせを待ちわびる
己(おの)が罪の深さを知りて
君を殺(あや)めた指を落とすとも
痛みも感じぬ氷の身は
命を絶つ事も許されず
雪の化身(けしん)と生まれし業(ごう)を
背負いて永遠(とわ)に哭(な)き続ける
愛する者達を抱き締める事さえ
叶わぬ孤独を生きるなら
紅く燃えさかる業火(ごうか)で此(こ)の身を
焼かれて地獄へと堕ちたい
雪は何処(どこ)までも 白く降り積もる
それは 終りなき罰の様に
愛する者達を抱き締める事さえ
叶わぬ孤独を生きるなら
どうか燃えさかる業火(ごうか)で此(こ)の身を
焼き尽くし灰にして欲しい
いつか結ぶ運命(さだめ)の糸は
固く氷の楔(くさび)と成りて?
07. 鬼斬忍法帖
粉雪の舞い踊る
寒の殿戸の下
匂やかな妖気立つ
陰に潜みし影
魔の物に魅入られし
人の形の鬼
殺陣は血で煙り
屍は山と成る
魂亡くした
虚ろな器
玉虫色の
幻に包みて
鬼斬忍法
咲いた側散りぬるは
邪気を孕みし花
嫋やかな魔性の力
病みを飲み込む闇
魂亡くした
虚ろな器
玉虫色の
幻に包みて
鬼斬忍法
二つに裂いても
微塵に刻めど
内から外から
鬼は潜み入る
人の弱さ故
懐柔さるるが
己が魂で
打ち砕け鬼を
08. 百の鬼が夜を行く
(百鬼(ひゃっき))夜闇を切り裂いて
有象無象(うぞうむぞう)の異形(いぎょう)が
(百鬼)練(ね)り歩く月一度の
我が物顔の鹵簿(ろぼう)
触(は)え尽(つ)く京の都に
哀れに横たわる骸(むくろ)
この世に残した怨み
幾許(いくばく)か晴らさんと
月が燃え尽きた天の火が 赤と黒の下
溢れ出した百(もも)の鬼が 我先と夜を行く
(百鬼)天変地異(てんぺんちい)の前触れ
己(おの)が所業(しょぎょう)の代償
(百鬼)逃げ出す事も叶わず
あれよあれよの頓死(とんし)
陰陽(いんよう)の狭間から
響き渡る笑い声
あの世で結んだ契(ちぎ)り
永久(とこしえ)に忘れじと
月が燃え尽きた天の火が 赤と黒の下
溢れ出した百の鬼が 挙(こぞ)り夜を行く
闇が踊りだす巳(み)の日の 弥生(やよい)の空には
溢れ出した百の鬼が 我先と夜を行く
矮小(わいしょう)なり、姑息(こそく)なり
憎き藤原、醍醐(だいご)の一族
既に亡き者時平(ときひら)に
代わりて屠(ほふ)る子々孫々(ししそんそん)ども
09. 陰陽師
「東海(とうかい)の神、名は阿明(あめい)
西海(せいかい)の神、名は祝良(しゅくりょう)
南海(なんかい)の神、名は巨乗(きょじょう)
北海(ほっかい)の神、名は禺強(ぐきょう)
四海(しかい)の大神(たいしん)、全知全能(ぜんちぜんのう)の力を以(も)ち、
百鬼(ひゃっき)を避(しりぞ)け、凶災(きょうさい)を蕩(はた)う
我、常に月将(げっしょう)を以(もっ)て占時(せんじ)に加へ、
日辰陰陽(にっしんいんよう)を見る者なり」
荒ぶる森羅(しんら)の魔物達よ
羅睺(らご)の夜に目覚めん
掲げる桔梗(ききょう)の星の上に
開かる光と陰の門
闇より出(い)でたる魔性を祓(はら)い去る
光放つ十二神将(じゅうにしんしょう)
我が足に集い呪詛(のろい)を込めて飛べ
此の世の和を結ばんが為
光は闇を裂き 風は雲を散らす
万象(ばんしょう)の力よこの両手の力と変れ
渦巻く暗雲(くらくも)天を殺し
現る凶事(きょうじ)のうなりか
地獄に這(は)いずる蟲の如(ごと)く
のたうつ哀れなる怨霊
舞い踊る邪気に朱(しゅ)の霊符を放ち
冥土(めいど)送りの唄を唱う
戦慄(わなな)く魔魅達を喰らう式神ども
骨を食み血肉を啜(すす)れよ
光は闇を裂き 風は雲を散らす
万象の力よこの両手の力と変れ
今は昔、京の都に
人ならぬ力を操る者有り。
古井戸より冥界へと行き来し、
死者と語り物怪(もののけ)とたわむる。
数多(あまた)の式神を使役(しえき)し、
満月の夜には魔物に跨(また)がり
天を駆けたという。
其(そ)の者を人は、陰陽師(おんみょうじ)と呼ぶ。
闇夜に綾(あや)なす魑魅魍魎(ちみもうりょう)の群れ
冥府の藻屑(もくず)と引き裂かん
轟(とどろ)く雷鳴その叫びの果てに
紅蓮(ぐれん)の火を上げる地獄へ
還(かえ)れ魔の民よ二度と目覚めぬ様
結んだ印に情けを込め
鎮(しず)まる魂 黄泉(よみ)の底で眠れ
哀れなる性(さが)を忘れ去り
光は闇を裂き 風は雲を散らす
万象の力よこの両手の力と変れ
10. 亥の子唄
ここもひとついわいましょ
いちでたらふんまいて
にでにっこりわろおて
さんでさけつくって
よっつよのなかよいよいに
いつついつものごおとくに
むっつむびょうそくさいに
ななつなにごとないように
やっつやしきをたてならべ
ここのつこくらをたてひろげ
とおでとうとうおさまった
ほん ほんえ一い
めでたいなめでたいな
めでたいものはおせんすよ
おせんすかなめにいけほりて
いけのしたにたおしつけ
そのたにたおしてかるときにゃ
ひとくろかればにせんごく
ふたくろかればしせんごく
みくろもかればこくしらぬ
そのこめさけにつくして
さけはじょうざけいずみさけ
そのさけいっぱいのんだもんにゃ
まんのちょうじゃとなりそうな
ほん ほんえ一い
ここのやしきはようやしき
ここのこどもはよいこども
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