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01. 火車の轍
風が猛る虛空(こくう)を拔けて
死者を攫(さら)い何處(いずこ)へ消える
羅袖(らしゅう)はためき裂けて
呼ぶ聲も遠く闇に飲まれた
葬斂(そうれん)の跡は 火の轍(わだち)
弔(とぶら)いを焦がす
雨に濡れる五月雨(さみだれ)の午後(ごご)
引き裂かれた儕(ともがら)の許
逆卷く風に煽られて
呼ぶ聲も遠く闇に飲まれた
葬斂の跡は 火の轍
弔いを焦がす
葬斂の跡は 火の轍
弔いを焦がす
驀地(ましぐら)に驅ける 火の轍
焦熱(しょうねつ)の葬車
02. 百々目鬼
煙景(えんけい)の霞(かすみ)の嶺(そね)
玉響(たまゆら)に心襲う
魔の刺したる間隙(かんげき)
千篇(せんぺん)が一律(いちりつ)皆
悉(ことごと)く餘人(よじん)の功(こう)
のさばりし茶番劇(ちゃばんげき)
底に滿ちた偉功(いこう)を
這(は)いずり舐めるその仕草
その手には幾(いく)ばくの望み
混沌(こんとん)の祭りは今
荒れ果て路頭(ろとう)に迷う
移(うつ)ろわぬ偶像(ぐうぞう)と
掌握(しょうあく)した榮光は
手垢でどず黑くとも
滿面のしたり顏
底に滿ちた偉功を
這いずり舐めるその仕草
その手には幾ばくの望み
己(おのれ)も うぬらも
限りない先人(せんじん)の形見(かたみ)を
齧(かじ)りて 舐(ねぶ)りて
明日を生きる餓鬼(がき)の群(むれ)と知れ
堆(うずたか)く積もり 流れ落ちる どどめき
底に滿ちた偉功を
這いずり舐めるその仕草
その手には幾ばくの望み
己も うぬらも 限りない先人の形見を
齧りて 舐りて
明日を生きる餓鬼の群と知れ
堆く積もり 流れ落ちる どどめき
03. 窮奇
目障りな醜貌(しゅうぼう)が
吐き出すのは美辭麗句(びじれいく)
疾風(はやて)の刃 精神(こころ)求めて
真芯(ましん)に立てるとも
紅蓮(ぐれん)の空に 曬(さら)されるのは
己(おのれ)の貌(かたち)
肉を斬る偽(いつわ)りと
骨を斷(た)つ勞(いたわ)りを
疾風の刃 精神求めて
真芯に立てるとも
紅蓮の空に 曬されるのは
己の貌
止めどなく溢れ出る
魂の冥(くら)い叫び
疾風の刃 精神求めて
真芯に立てるとも
紅蓮の空に 曬されるのは
己の貌
04. 空蝉忍法帖
朽ちた樒(しきみ)を抱いて
紅い淚零(こぼ)れ
剝き出しの爪先で
虛空(こくう)を摑(つか)めば
心さえ 闇の淵に溶かしたの
名前さえ 甘い夢に泡と消えるの
墮(お)ちる大廈(たいか)の影に
蒼(あお)き迦毘羅(かびら)と見(まみ)ゆ
張り裂けた激情が
私を包んでゆく
心さえ 闇の淵に溶かしたの
名前さえ 甘い夢に泡と消えるの
空蟬(うつせみ)の行く先は
虛無(きょむ)が眠る沼
心さえ 闇の淵に溶かしたの
名前さえ 甘い夢に泡と消えるの
體(からだ)さえ 夜の雨に流したの
名前さえ 熱く燃ゆる臆(おく)に匿(かく)して
05. 土蜘蛛忌譚
其(そ)の身を光刺さぬ闇に葬(はぶ)り
只靜かに刻(とき)を待つ
爛(ただ)れた其(そ)の面(つら)の川の奧では
深い劣情(れつじょう)が燃える
寒し熱し 痛し癢(かゆ)し 聲も出せぬ
孤獨な土の中は
臍噬(ほぞか)む努(ゆめ)の欠片(かけら)
冷たい土を食(は)みて
繫いだ明日(あす)の戶片(とびら)
仄見(ほのみ)ゆ公方(くぼう)に
順(まつろ)う安寧(あんねい)
降り拂いて德と為(な)す
縮(ちぢ)れた見るに耐えぬ下卑(けび)た體(からだ)
忌(い)むべき心を映す
饑(ひだ)るいだけ ひもじいだけ
吐息(といき)青く
孤獨な土の中にゃ 屆かぬ夢の欠片
冷たい土を食みて 繫いだ明日の戶片
朽ちてゆく誇りさえ
滔滔(とうとう)と時間(とき)は流れて
湧き上がる其(そ)の焦燥(あせり)から
己(おの)が住處(すみか)を求め惑(まど)う
毛むくじゃらの腳が 醜(みにく)い腳が
しなしなと震えて 躪(にじ)り寄って來る
丸々と膨(ふく)れた ぶよぶよの腹
孕(はら)み子が飢(かつ)えて 人を飧ろうたか
土(つち)(地蜘蛛(じぐも) 穴蜘蛛(あなぐも))
蜘蛛(ぐも)(袋 腹切り)
忌(い)む(侍(さむらい) ねぬけ)
唄(うた)(ずぼずぼ 堪平(かんぺい)
嫌だ 厭(いや)じゃ)
哀(かな)し虛(むな)し
憎し悔(くや)し 何も見えぬ
孤獨な土の中は 臍噬む努の欠片
冷たい土を食みて 繫いだ明日の戶片
06. 蟒蛇万歳
ほら憂(うれ)いも病(やまい)もみな
玉の帚(ほうき)で掃き捨てる
赤い眼(まなこ)の同胞(はらから)が
蟲の息にて蛸踴(たこおど)り
飲めど飲めど醉いはせぬ
當(まさ)に蟒蛇(うわばみ) 萬歲!
あら綺麗も嫌いも無く
今宵の醉いに醉いしれる
座り眼の娘らに
冷(ひや)い視線を投げられても
醉えど醉えど沈みゃせぬ
此(これ)ぞ蟒蛇 萬歲!
空見上げりゃ御天道樣(おてんどうさま)
今日も明日も明後日も
蟒蛇萬歲(うわばみばんざい)!
07. 浸食輪廻
蓮華台(れんげだい)に座り
うつらうつらと念(おも)う
我(われ)の朽ちた後(のち)は
灰と塵の吹き飛ぶのみか
迺(だい) 迺 迺 前世(ぜんせ)の記憶
迺 迺 迺 今際(いまわ)の追憶(ついおく)
迺 迺 迺 末期(まつご)の家屋(かおく)
迺 迺 迺 輪迴(りんね)の日記
夕べ飧ろうた魚(うお)は
明日の我が身かと
世捨(よす)て人になれど
死の影から逃れはできぬ
迺 迺 迺 前世の記憶
迺 迺 迺 今際の追憶
迺 迺 迺 末期の家屋
迺 迺 迺 輪迴の日記
蟲(むし)は魚(うお)に 魚は鳥に
鳥は獸に 獸は人に
人は鬼に 鬼に飧われ
佛になるか 蟲に生まれるのか
迺 迺 迺 前世の記憶
迺 迺 迺 今際の追憶
迺 迺 迺 末期の家屋
迺 迺 迺 輪迴の日記
迺 迺 迺 此(こ)の世に生まれ
迺 迺 迺 彼(あ)の世に還(かえ)る
迺 迺 迺 迴(まわ)りて巡りて
迺 迺 迺 浸食輪迴(しんしょくりんね)
08. 月姫
嗚呼(ああ) 闇に凍える私は月
幽(かす)かな光を 肌に纏(まと)い
空(うつほ)を滿たす 水の樣に
この身を溶かす 腕(かいな)を待ち侘びる
徒戀(あだこい) それとも運命(さだめ)の糸
葉わぬ 遙かな夢か幻
消せぬ想いは 朧(おぼろ)の雲に
密(ひそ)んで嘆く 淚(なみだ)は地を濡らす
私の光が消えぬ間に
どうか咒縛(のろい)を斷ち切って
風はいつしか雲を散らし
彼方(あなた)の空に光は滿ちる?
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